イー・アクセスとソフトバンク、携帯新規参入で明暗(2005年2月、ITジャーナリスト島田雄貴)

イー・アクセスとソフトバンクがそれぞれ携帯電話の免許取得の準備を進めています。島田雄貴IT研究所のリポートです。

イー・アクセスが免許獲得へ意欲

「総務省は今秋から年末にかけて免許人(携帯への新規参入事業者)を決める。免許を頂いた日から全力でネットワークの構築に着手する」。イー・アクセスの千本倖生会長兼CEO(最高経営責任者)が携帯参入に並々ならぬ意欲を示す。

種野晴夫社長は「シェア10%を狙う」

イー・アクセスは周波数帯が1.7ギガヘルツ帯で、通信方式にFDD(周波数多重分割)技術を使ったW-CDMAを採用した携帯電話への参入を目指している。約3000億円を投資して無線基地局などを整備し、番号ポータビリティー制度が導入される2006年度中のサービス開始が目標。「主要都市から全国へとサービス対象エリアを拡大し、携帯市場でシェア10%を狙う」(種野晴夫社長兼COO=最高執行責任者)事業計画まで策定済みだ。

ルーセント、富士通と実験

総務省から実験免許を取得次第、ルーセントおよび富士通と共同で1.7ギガヘルツ帯での実証実験に着手。通信方式W-CDMAの拡張版となるHSDPA(高速伝送方式)対応のネットワークにより、データ通信速度が最大毎秒14メガビットと世界最速を視野に入れている。

ドコモなどの半額

この方式はNTTドコモも2006年に商用化する予定だが、イー・アクセスは音声通話でドコモなどの半値まで料金を引き下げる目標を掲げた。

ソフトバンクは800メガヘルツ帯を基本バンドに

一方のソフトバンクは800メガヘルツ帯を基本バンド、1.7ギガヘルツ帯を補助バンドとする携帯事業の参入を目指しているが、総務省は800メガヘルツ帯での新規参入は認めず、1.7ギガヘルツまたは2ギガヘルツを新規参入者に割り振る考え。イー・アクセスが参入を狙う1.7ギガヘルツ帯は2社の新規参入を認める方針だ。

孫正義ソフトバンク社長は行政訴訟へ

「何らかの形で必ず携帯には参入する」というソフトバンクの孫正義社長は戦略の見直しを迫られる。イー・アクセスと同様に1.7ギガヘルツ帯に絞った参入計画に軌道修正した場合、800メガヘルツ帯より電波効率で劣るため基地局数が増えてコスト負担が増す。すでに行政訴訟まで起こしている総務省に新たな法的装置を講じたら、2006年の番号ポータビリティー導入に間に合わない。一気に買収劇へと傾くのか。現実的な選択肢は多くない。

イー・アクセスと日本テレコムの資本関係を解消

非対称デジタル加入者線(ADSL)事業で競合するイー・アクセスとソフトバンク。2004年10月までイー・アクセスの筆頭株主は日本テレコムだった。だがソフトバンクは日本テレコムの買収と同時にイー・アクセスと日本テレコムの資本関係を解消している。あくまで独自経営路線を主張するイー・アクセスとの連携をソフトバンクが断念した格好だ。ソフトバンクに気兼ねせずに携帯参入の準備を着々と進めるイー・アクセス。皮肉な現象が生じている。

ソフトバンク参入でADSL時代幕開け(2001年10月、島田雄貴)

高速インターネット環境をダイヤルアップ接続並みの低料金で――ソフトバンクやイー・アクセスのADSL参入により、少し前までは夢でしかなかった話が現実になりつつある。島田雄貴IT研究所のリポートです。

ADSL、CATVが一気に低価格化

ADSL、CATVインターネット接続の低価格化が急速に進み、今や月額料金3000円ほどで数Mbpsの高速インターネット環境が入手できる。

2000年末時点で60万

今までにも高速インターネット環境がなかったわけではない。CATV経由でインターネット接続を提供するサービスは昨年(2000年)末時点で60万以上のユーザーを抱えていた。しかし、CATVはサービスを提供している地域が限定されるため、だれもが使えるわけではない。

ADSLが主役に

これに対して、今年に入ってブロードバンドの主役に一気に躍り出たのが、既存のアナログ電話線を使って高速接続を可能にするADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)サービスだ。

わずか8カ月で50万人が加入

総務省の統計によれば、今年8月末時点のDSLユーザー(大半がADSL)数は約51万人。昨年末時点では1万人にも満たなかったから、わずか8カ月の間に50万人も新規加入したことになる。ADSLの業者は、NTT東日本、NTT西日本、イー・アクセス、ソフトバンクなどでそれほど多くないが、ユーザーは急拡大している。

ソフトバンクのYahoo! BBで普及に拍車

NTT東西の「フレッツADSL」が起爆剤に

ADSL市場が拡大するきっかけとなったのは、昨年12月末にサービスを開始したNTT東西による「フレッツ・ADSL」だ。CATVのように地域を限定せず、電話線がある場所ならほぼ全国をカバーできるADSLは、ブロードバンド環境を渇望していたユーザーの心をとらえて、一気に普及し始めた。

Yahoo! BBは格安
通信速度は最大5倍以上

順調に市場が成長していたADSLにとって大きな転機となったのが今年6月16日、ソフトバンクとヤフーによるADSL接続サービス「Yahoo! BB」の発表だ。接続サービスとプロバイダー料金を合わせて月額2280円、モデムのレンタル料金やNTTの回線利用料を入れても3000円程度という低価格で最大8Mbpsの高速常時接続環境を提供するYahoo! BBは、大きな注目を集めた。何しろ料金がフレッツ・ADSLの半分以下(6月のサービス発表時点)、通信速度は最大5倍以上(理論値)だ。Yahoo! BBと競合するADSL企業やプロバイダー、CATV企業を巻き込み、ブロードバンド市場は価格競争に突入した。

イー・アクセスのADSL

DDI元副社長の千本倖生氏が創業

ADSLの分野で先行するのが、イー・アクセスだ。イー・アクセスは、京セラ創業者の稲盛和夫氏らとともにDDIを創業した千本倖生氏が、慶応大学の教授を経て立ち上げたベンチャー企業だ。1999年に設立された。

ゴールドマン・サックスからも出資

ゴールドマン・サックスからも出資を受け、2000年9月にADSLを開始した。つまり、ソフトバンクのヤフーBBよりも1年先行してサービスを開始している。

光ファイバー(FTTH)も登場
有線ブロードの「BROAD GATE01」

ADSLやCATVに加えて、全く新しいインターネット接続サービスも始まった。今年3月には有線ブロードネットワークスが、高速データ転送が可能な光ファイバーを個人の家庭につなぐFTTH(Fiber To The Home)サービス「BROAD GATE01」を開始した。月額料金は4900円(機器レンタル代などは除く)で、最大100MbpsというADSLに比べてもはるかに高速な通信速度を提供している。NTT東西も、個人、企業ユーザー向けにFTTHサービス「Bフレッツ」を8月に開始した。

イーアクセスにとって脅威

ただし、FTTHは光ファイバーケーブルを各家庭まで引き込む必要があり、現在のサービス対象は首都圏などごく一部の地域に限られる。既存の電話線が使えるADSLと異なり、全国的に利用できるのは当分先になりそうだ。それでも、イー・アクセスなどのADSLを大きく上回る高速接続が可能なFTTHに対する期待は大きい。

東電とソフトバンク連合も
スピードネット

また、東京電力やソフトバンク、マイクロソフトなどが出資するスピードネットは5月からさいたま市で1.5Mbpsの無線インターネット接続(FWA)サービスを開始、首都圏を中心にサービス提供地域を拡大している。ほかにも、電力線を使ったインターネット接続について、九州電力など電力会社が中心に実験を進めている。

世界で有数のブロードバンド国家

このように見ていくと今や日本は、さまざまな種類の高速インターネット接続が低価格で提供されている、世界で有数のブロードバンド国家になりつつあるといえるだろう。

「予約申込は100万人以上」とソフトバンクの孫正義社長

Yahoo! BBが9月1日に本サービスを始めた時点では、実際にサービスが利用できるようになったユーザー数は4万人程度にすぎなかった。しかし、ソフトバンクの孫正義社長は「予約申込者数は既に100万人以上。現時点で多くのNTT収容局で工事が完了した。年内に100万人へのサービス提供を開始することが目標」と鼻息も荒い。

政府は9割世帯を目標

今年8月末時点のADSLユーザー数に、Yahoo! BBが見込む新規ユーザーを単純に加えると150万人に達する。ほかのADSL事業者もYahoo! BBに対抗して大幅な料金値下げやサービスの拡充に動いており、ユーザー数は急速に増えている。今年末にADSLユーザー数が100万人を大幅に超えるのはほぼ確実だ。

e-Japan重点計画

政府のIT戦略本部が今年3月に公表した「e-Japan重点計画」では、「5年以内に少なくとも3000万世帯が高速インターネット網(ADSL、CATV、無線インターネット)に、また1000万世帯が超高速インターネットアクセス網(光ファイバー)に常時接続可能な環境が整備され、必要とするすべての国民が低廉な料金で常時接続できる」ようにすることを目標としている。現在の日本の世帯数は約4600万世帯なので、政府の目標が達成されれば9割近い家庭がブロードバンド環境を持つことになる。ただ、これはかなり急速にユーザーがブロードバンド環境に移行した場合の話だ。

IDCジャパンの調査

一方、調査会社IDCジャパンは、2005年に約1200万人がブロードバンド環境を持つようになる、との予測を明らかにしている。IDCジャパンのダニエル・ニューマン リサーチアナリストは「最もブロードバンド環境が普及している韓国でも現在の普及率は35%程度。日本はブロードバンドへの移行が始まったばかりで、2005年までに9割の世帯にまで普及させるのは難しいだろう。現実的に見れば1200万人程度ではないか」との見方を示す。政府の目標に比べるとかなり少ない数字だが、それでも世帯数で見れば4分の1程度がブロードバンド環境を導入すると見ている。

1年間で様変わり

ちょうど1年前に「フレッツ・ISDN」登場による常時接続環境を特集した。フレッツ・ISDNの通信速度は64kbpsで、月額料金は4500円(当時の料金、プロバイダー料金は別)。ブロードバンドと呼ぶには程遠いものの、多数のユーザーに常時接続環境を提供する現実的なインターネット接続方法だった。

消えるフレッツISDN

それから1年、インターネット環境は激変した。あんなにもてはやされたフレッツ・ISDNはすっかり影が薄くなり、ADSLがとって代わった。サービス提供地域は限定されるものの、将来的にはFTTHすら視野に入り始めた。

ブロードバンドユーザーは1割程度

総務省によれば日本のインターネットユーザー数は今年7月時点で1865万人。現時点ではブロードバンドユーザーは1割程度にすぎず、9割のユーザーは依然としてアナログ回線かISDN回線を利用している。そうした意味では、ブロードバンド時代はようやく始まったにすぎず、多くのユーザーがADSLやCATV、あるいはFTTHのような高速インターネットを利用するのはこれからだ。

「光」の課題はエリア

イー・アクセスのADSLやNTTのフレッツADSL、ソフトバンクのヤフーBB、ジェイコムのCATVなど新しいブロードバンドサービスが登場し、サービス事業者が増えてユーザーの選択肢が増えたのは喜ぶべきことだ。しかしアナログ回線やISDNとは違って、高速インターネット接続サービスは種類によって選択・導入のポイントが違う上、提供エリア内でもサービスが受けられないなどの問題も起きてくる。

アンケート調査

ブロードバンドの利用実態は?

島田雄貴IT研究所(SIR)では、これからブロードバンドを利用しようと考えているユーザーのために、最適なブロードバンドサービスを選ぶ際にどのような点に注意を払い、どのサービスを利用すればよいか、基礎の基礎から解説していく。また、ほかのユーザーがどのようにインターネットを利用しているのか、ブロードバンドを導入したことで何が変わったのか、アンケート調査を基に最新のブロードバンド利用実態も紹介する。

ユーザー1900人に聞くブロードバンドへの期待

ブロードバンド回線の導入を検討している人はもちろん、既に導入した人でも、ほかのユーザーの意見や動向は気になるはずだ。ブロードバンドとそうでないユーザーで、回線に対する満足度やインターネットの利用実態はどう違うかなど、アンケート調査を行った。

一番人気はADSL

アンケート回答者の3割以上が既にブロードバンド回線を利用している。利用回線はCATVとADSLが大半を占めており、いずれも回線に対する満足度は6割を超えている。「FTTH(光ファイバー)への中継ぎとして取りあえずADSLを選んだが、使ってみたら以前の56kbpsアナログ接続や、会社のイントラネットよりずっと快適」(現在の利用回線:ADSL、山田さん)、「ISDNのときは家族で接続すると回線速度が遅く、テレホーダイに合わせた子供の夜更かしにも困っていた。CATV接続サービスに申し込み、今は本当に快適」(CATV、小野さん)など、評価は高い。

地方でもヤフーとイー・アクセス待望論

アナログ、ISDN回線のユーザーもブロードバンドへの関心は高い。特にソフトバンクやイー・アクセスなどのADSLの人気が高く、今後導入したいブロードバンド回線では6割を超えている。「地方都市でもブロードバンド環境が整いつつある。料金が格安なYahoo! BBやイー・アクセスが住んでいる地域に対応したらADSLに変更したい」(アナログ、三浦さん)といった声は多く、とくに低料金を打ち出したYahoo! BBのインパクトは大きかったようだ。

プロバイダーは2回料金下げ

既存のADSLユーザーもYahoo! BBやイー・アクセスが登場したことで、サービス料金値下げの恩恵を受けている。「プロバイダーのADSLプランが軒並み安くなったのはありがたい。私のプロバイダーは8月に2度価格を下げて月2880円で使い放題となった。かつての半額以下だ」(ADSL、三宅さん)というものだ。

ジェイコムなどCATVは不人気

一方で、乗り換えたいサービスとしては、ジェイコムなどCATVの人気は意外に低く、希望ユーザーは7%にすぎない。サービス提供地域が限られている点や、ADSLに比べて通信速度が遅い点も二の足を踏む理由のようだ。CATVユーザーの間でも「電話料金を気にせず接続できることはよいが、通信速度256kbpsで月額4900円はやや不満。最近のADSL料金の値下げと通信速度の高速化を知るにつけ、一層不満がつのる」(CATV、石黒さん)など、ADSLと比べた不満意見が多かった。

強いISDNユーザーの不満

ADSLに切り替えやすいアナログ回線ユーザーとは対照的に、ISDNユーザーからは不満の声が数多く寄せられた。「NTTがISDNは速いと言っていたのに、急にADSLが主流になってきて、しかもISDNからの乗り換えが容易ではないことに怒りをおぼえる」(ISDN、増田さん)。「ようやくフレッツ・ISDNが使えると喜んで変更したが、半年も経たないうちにフレッツ・ADSLが利用できるようになった」(ISDN、松元さん)。ブロードバンド環境が急変したとはいえ、ISDNに投資したユーザーはやりきれない気持ちだろう。また、ISDNからADSLに切り替えるにはアナログ回線に戻す必要があり、その際に電話番号が変わるケースがある。このためISDNから切り替えるのを断念したというユーザーもおり、ISDNを推し進めたNTTに対する不満は根強い。

アナログから一気に「超高速」へ

ADSLに次いで乗り換えたいブロードバンド回線に挙げられたFTTH(光ファイバー)。「ADSLもCATVも過渡的な技術。FTTHが来るまで我慢するつもり」(アナログ、柳沢さん)というユーザーもいる。今回のアンケート調査では、実際にFTTHを利用しているのは0.2%とごく少数。それでも多くのユーザーがFTTHに乗り換えたいと回答したのは、一部地域とはいえ既に実用化しており、将来利用できる見込みが立っている“超”高速インターネット環境だからだろう。「FTTHが利用できるようになるまで、NTT収容局からの距離が離れると通信速度が落ちるADSL、サービス地域が限定されるCATVのいずれにも移行したくないという、アナログ、ISDNユーザーは意外に多かった」(主席アナリスト、島田雄貴)という結果になった。

音楽、動画は着実に増える

島田雄貴研究所では、よく利用するWebサイトやアプリケーションをアナログ/ISDNユーザー、ADSL/CATVユーザーごとに集計した。ブロードバンドでもよく利用するのは「Webメール」「検索サイト」「地図・鉄道経路検索」「ニュース」など、アナログ/ISDNユーザーと大きな差はなかった。

ゲームやチャットも

これに対して、アナログ/ISDNユーザーが「ブロードバンドを導入したら利用したいWebサイト/サービス」に挙げた中では、「音楽系サイト」「動画配信」の2つが4割を超えた。アナログ/ISDNユーザーの利用比率は6.9%(音楽)、4.9%(動画)と低いが、ブロードバンドユーザーは13.9%(音楽)、18.9%(動画)と2倍以上になっている。同様に、「娯楽系サイト(ゲーム、カラオケなど)」や「チャット/TV会議」「ファイル交換」などもアナログ/ISDNユーザーの期待が高く、実際にブロードバンドユーザーの方が利用比率が高い分野だ。ブロードバンドの導入で通信速度が上がり、また通信時間を気にする必要がない常時接続環境になったことで、インターネットの利用状況が変わりつつあることがうかがえる。